2020年9月期
第57回募集、佳作1作品・期待賞1作品・奨励賞2作品・努力賞1作品選出!
今回も多数のご応募ありがとうございました。その中から選出された、栄えある受賞作品は…?(9月30日締切分)
賞金10万円
受賞作掲載
『ホスト探偵 斑』
初瀬 白(22)
あらすじ
時は大正。通り魔に友人を殺された女給の伊津子は、犯人探しのため名探偵の男・斑を尋ねる。しかし斑は呆れるほど女たらしのホストで…?
作品講評
「大正時代の探偵」という題材に合ったレトロで外連味のある作画が好印象。長編でも冗長さを感じにくい、読みやすい画面構成も評価を集めた。ホストというキャラクター性はインパクトがあり面白かったが、ホストらしい描写が少なかったのは勿体ない。加えて探偵ものとしては推理部分の展開が単調に見えて物足りなかったので、作品の主となるモチーフの掘り下げをよりいっそう意識すると良いのではないだろうか。次回も期待している。
賞金5万円
受賞作掲載
『夜叉』
清村(21)
あらすじ
重度のオカルト研究家で大学の非常勤講師の男、松絹とそれを手伝う学生の愛美は、祟り神を祀る怪しげな社を目指し田舎町を訪ねるが…。
作品講評
ジャパニーズホラーのような演出が不気味で、魅力的な雰囲気づくりに成功していた本作。しかし序盤の設定に大きく触れないまま主だった事件を解決するため、提示された設定を回収しきれておらず1つの物語で2つの大きな出来事が進行するような構成となっていた。次回はシンプルな物語の流れに挑戦し、設定に振り回されない作品を目指してみてほしい。また、絵には魅力を感じるが、引きの場面で線の太さがトーンに負けているため、画面全体が雑然として見える。遠近感を意識して、線の強弱を明瞭にしてみては。
賞金3万円
『戸締まりはするな怪異たち』
寺田寛子(33)
あらすじ
路上生活を送る男・目廻部はお祓いの専門家。幼馴染で不動産屋の娘、須磨みたにから退去者が相次ぐ部屋のお祓いを頼まれるが――。
作品講評
前作と比べると構成面や、キャラクターの作り方などに、かなり成長を感じる完成度となっていた。ただ、主人公のトラウマが解決されずに物語が終わるので、不完全燃焼さは否めない印象。またキャラクターの反応や設定を語るコマの演出に、悪い意味で懐古的なところが目立つため、現在人気な商業作品の演出を研究するなど、さらなるアップデートを図ってほしい。加えて画面処理が意図的だとしても、やや演出が過剰な箇所があるため、画面全体のバランスを見ながら調節することを心がけてみてほしい。
『夏空リコレクション』
サトミヒロシ
あらすじ
「私昨日のことなにも覚えていないんです――そういう病気なんです」ミステリアスな少女・トウコの意外な告白。大学生のナツキは、そんな彼女の記憶を繋ぎとめるために文通を始めるのだが…。ひと夏の淡い百合物語。
作品講評
心の機微を繊細に描き切った画力が評価され、受賞に至った。また、手紙のモチーフをうまく活かした演出が秀逸といえる。反面、構成があっさりとした展開となっている点が惜しい。クライマックスもやや駆け足気味で進行するので、「忘れたくない瞬間」といった心理描写をしっかりと描いて、物語の山となる部分を丁寧に見せたい。次回作では百合作品に重要な、女の子のキャラクター同士が惹かれ合う動機を描くことを意識してほしい。
賞金1万円
『あのひとのまもりかた』
助友悠俐
あらすじ
憧れの近所のお姉さんが「どうしても着てほしい」と渡してきたのは、自作のヒーロースーツだった!? 男子高校生の清貴が、年上の女性・頼子に振り回されるドタバタ?ラブ?コメディ!
作品講評
バリエーション豊かで、どこか色気のある表情の描き方にセンスが感じられた。ただ、顔のデッサン、特に横顔が崩れやすいため、強みを活かすためにも注意が必要。また、お話の動きが単調で、せっかくのネタに唐突感を与えてしまっている。読者が続きを楽しみにページをめくるには、どういう演出で見せていけばいいのか、お話づくりをさらに磨いてほしい。
佳作1作品、期待賞1作品、奨励賞2作品、努力賞1作品選出。
幅広い実力を感じさせる作品が集まった今回。
『ホスト探偵 斑』はケレン味のある画面・構成が評価され佳作と相成った。絵で魅せていこうとする姿勢はぜひ今後も継続して欲しい。一方でジャンルとしては探偵ものに該当する今作は、もっとも旨味となるはずの推理パートに詰めの甘さが感じられた。それは同時に探偵役としてのキャラ性を落としてしまうことにも繋がる。「こんなキャラ”なのに”!」といった意外性を作るなど、キャラの行動や思惑を積み重ねてキャラクターの造形を深めていくことも意識して欲しい。
『夜叉』は、オカルトという題材に期待する演出が期待通りに発揮されていたことで受賞に繋がった。惜しむらくは伝承の具体化が浅いため、解決時のカタルシスも浅いものとなってしまっていることだろう。祟り一つにとっても「どんなモノの何に対する」祟りかがわかると、読者の共感を伴って事件を解決できる。前作から着実なレベルアップを感じるので、ぜひ次作も今作を上回るつもりで挑んで欲しい。
奨励賞を受賞した『戸締まりはするな怪異たち』、『夏空リコレクション』は乗り越えるべき課題はあるものの、一定の完成度に達していたことが受賞の決め手だろう。努力賞の『あのひとのまもりかた』を含め、自分の作家としての色をどうやって突き抜けさせるか、作家なら誰しもが抱える悩みだが、まずはお話の型に嵌めながら「もっとこうなってもいいんじゃないか」と普段感じていることを入れ込むのも一つの手だ。視野を広く持ち、自身の作品づくりを探求して欲しい。
今後も「今の自分の実力を超えたい」という気概に溢れる作品をお待ちしております。