月例マグコミマンガ大賞・結果発表 2018年10月期

2018年10月期

月例マグコミマンガ大賞 結果発表!!

第34回募集、期待賞2作品・奨励賞3作品・努力賞5作品選出!

今回も多数のご応募ありがとうございました。その中から選出された、栄えある受賞作品は…?(10月31日締切分)

完成原稿部門:期待賞賞金5万円
受賞作掲載

『兄と共にいた夏。』

『兄と共にいた夏。』

坂本成(20)

あらすじ

真っ白な入道雲。二人で飲んだラムネの味。夏の匂い。僕ら双子はいつだって一緒だ。好きなものも嫌いなものも何だって二人で共有した。でも、ただ一つ、僕は兄と共有できないものがあった――。

作品講評

淡い情景、艶のある表情、儚くも美しい兄弟の関係性、叙情的な言葉選びなど、物語と画面が高水準で調和しており、高評価を得た。また、若干わかりづらくはあるものの、敢えてミスリードさせることで展開に意外性を持たせており、ストーリーにおいても伸びしろを感じた。今後、線の太さを描き分けて人物が背景に溶け込みすぎないようにすれば、淡く美しい画面の中でも人物の存在を鮮明に印象づけることができるだろう。

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『もちつもたれつ』

『もちつもたれつ』

ツカサ

あらすじ

市役所職員の新人・上古沢は雨音が騒音だと苦情を言いに来た、農家の松枝をただの理不尽なクレーマーだと追い返そうとする。だが、「市民協働推進課」の温井が現れ、雨音に混じって違う音…例えば、人の声が聞こえるのでは?と言い当てる。驚く松枝に温井は“うちの案件”かと思いますと担当を申し出るが――?

作品講評

市役所という身近な存在と、あやかし絡みの設定を上手く融合したユニークなストーリーが評価を集めた本作。テンポ良く短いページ数にまとめていた点も良かった。その反面、読者視点となるヒロインに賑やかし以上の役割がなかったのが残念。作画面でももっとペンタッチのメリハリがつくと更に良くなる。今後に期待したい。

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完成原稿部門:奨励賞賞金3万円

『レトロの礎』

『レトロの礎』

白道さやか(26)

あらすじ

未来都市に住む少年・トーマ。彼の家にはおじいさんの秘密の古い部屋がある。ある日、その部屋から突然ノイズが鳴り出して――…。

作品講評

画面がとても魅力的で引き込まれた。全体的に丁寧に描かれていて読みやすく、演出力もあり、総合的な漫画力は高い。ただ、肝心のストーリーが膨らまず、まるでプロローグといった感じのまま終止してしまっていたので、お話としては消化不良だった。今後はもっと踏み込んだお話作りを。画面に読ませる力があるので、あとはその力を活かせる描くべきテーマを見つけてどんどんレベルアップしてほしい。

『レストラン・イン・ディアボロ』

『レストラン・イン・ディアボロ』

寺田寛子

あらすじ

ここはレストラン・ディアボロ。今日もまたひとり訪問者が…?

作品講評

人の魂を料理するレストランというアイデア面が面白く、また独特の画風も相まって後半の盛り上がりはとても良かった。逆に前半部での導入の長さが冗長に感じてしまうのと、絵もこの方向性でいくならば、もっともっと研鑽して独自かつ洒脱な画風にしていく必要があるだろう。またそのためにも短いスパンで大量に作品を作っていくとよい。特に構成面で良かったので一つ一つ面白いストーリーの作品が期待できるだけに、あとはトライアンドエラーを繰り返してほしい。

『なつのおもいで』

『なつのおもいで』

とこのま

あらすじ

幽霊が見える女子高生・ナツは、写真展用の写真を消されたことから幽霊・千春の想い人探しに協力することになる。想い人はすぐに見つかった。ナツと不仲な母・雪子だったのだ。しかし、ナツが抱いている母の印象は、千春が話した昔の母と違っていて……。

作品講評

話運びと描線に丁寧さが感じられ、好感を持てる作品だった。一方で丁寧に読ませようとするあまり、必要な描写をどれも同じ密度で描いている印象を受けた。それによりメリハリが薄くなり、加えて画面の演出でケレン味を出す隙もなくなってしまったように思う。また、体や背景の描き方に固さが感じられる。女性キャラは柔らかさを、背景は質感を高めるため描き込みを意識して研磨してほしい。

完成原稿部門:努力賞賞金1万円

『Boys Be…』

『Boys Be…』

野平和弥(21)

あらすじ

頭も悪い、顔も良くない、告白相手には「名前…何だっけ?」完璧に心が折れた高校2年生の考平は自らダサく生きることにした。だが武術の達人の美少女に窮地を救われ「ダサイ」を卒業することに!?

作品講評

序盤からテンポ良く進み、一貫してテーマを追う構成でまとまりが良かった。その一方で予定調和な構成・演出であるためなにか工夫が必要。ヒロインの耳が不自由な設定はそれだけでは成り得るには弱かった。コマ割り・構図などのイメージ力は高いが、未熟な作画が大きく響き地味な印象になってしまっている。人物の顔などの基礎的な部分からの画力向上を目指してほしい。

『アディショナルロード』

『アディショナルロード』

白井くじら(24)

あらすじ

奇怪な行方不明事件が発生する街で、記憶喪失の少年・結希は面を被った謎の人物に連日襲われ、それを返り討ちにしていた。そこに事件との関連性を感じた少女・晴成は結希に行方不明の叔父について相談する…。

作品講評

「こう見せたい、だからこう描こう」という意識を感じる演出が良かった。絵も人の目を惹きつけるかっこいいものが描けている。一方で力が抜けている場所があるので根気は必要。ストーリー・キャラに関しては、活かしきれていない設定や消化できていない謎があり、読み終わった後にノイズとして読者の中に残ってしまっている。自身で意識している以上に「語りきれないこと」を描かないことと、「語るべきこと」を掘り下げてみてほしい。

『Heart Down』

『Heart Down』

村岡拓季(24)

あらすじ

精神異常が肉体にも異常を来す「Heart Down症候群」。新米警部補の辰巳愛は、HD症候群罹患者関連の事件を扱う警視庁公安部公安第九課内的事件特別対策係・通称「内的」に着任する。辰巳は、実の母を殺害したとされる被疑者・蛸川を追い、廃ビルへと赴くが…?

作品講評

大きく見やすいコマ割りと画面のコントラスト、各シーンの重みづけができており、また物語のシリアスな雰囲気を表現できていた。一方で、全体的にカメラがキャラクターに寄り気味で一見して何を描写しているのかがわかりづらかったり、物語を理解するために必要な情報が抜け落ちていたりと、「読ませる作り」まではもう一歩足りない印象。画力に加え、構成力を磨いてほしい。

『自動電話のイズチさん』

『自動電話のイズチさん』

三機

あらすじ

自動電話からかかってくる電話に出たものは、願いを1つだけ叶えてもらえるが、逆に対価が払えなかったときには、命を奪われるという…。

作品講評

舞台背景や設定が魅力的で、キャラクターを立てるのもうまい。ただ一方、前半部のイヅチさんに出会うまでが冗長であったり、あまり電話のフリが活かしきれていなかったり、また画風もまだまだ修行が必要と、課題が多い。焦らず一作品に一つずつ目標を設定し克服していくことをおすすめしたい。デザイン的には光るものがあるので、編集と二人三脚で粘り強く頑張ってほしい。

『隣の席のとあるはにわ』

『隣の席のとあるはにわ』

齋(30)

あらすじ

学校一目立たない主人公のとなりの席は…なんとはにわ!? 主人公以外誰も何も突っ込まないシュール系日常ギャグ!

作品講評

選考会では多くの編集がバケットのくだりで笑ってしまうくらいギャグのネタは面白かったが、作画の面や、そもそもネタの構成や演出面で足を引っ張ってしまった。ハニワキャラの見せ方、動かし方がいろいろと惜しい。ハニワっぽい人なのか、それとも本物のハニワなのか混乱させることがこの手のギャグの1つのポイントだが、キャラの個性を笑いに昇華するまでには一歩及ばずな印象。また主人公のリアクション一辺倒になりがちで、全体的に冗長になってしまっている。ギャグのネタはよいので、短く切れ味の鋭い作品にして、その分作画面に力を入れておけば評価は変わっただろう。

最終選考作品

『葵月士伝』(完成原稿部門)

月島ひろや(40)

『魔王城の仕立屋さん』(完成原稿部門)

九木七生(27)

総評

期待賞以下10作品選出。
総じて高水準の作品が数多く揃った今回。

期待賞の2作品は、作風に合った絵柄のテイストで好印象。ある程度画面のクオリティは担保されているものの、もう一声欲しいところ。『兄と共にいた夏。』は郷愁的な演出から一転、読み方や作品の印象さえ180度変えるギミックはお見事。読者をいい意味で驚かせようという姿勢はそのままに、よりドラマの部分を深堀りしたものを見たい。すわホラーか、と思われた『もちつもたれつ』は面白いことに『兄と共にいた夏。』と全く逆のパラダイムシフトが起こった作品。決め台詞もあり、企画力は今回の漫画賞の中で一番だった。しかし、こちらの作品もドラマに物足りなさを感じたので、芯はそのままに丁寧に肉付けをしてみては。奨励賞の3作品に関しては実力は窺えるものの、自分の出来る範囲内に作品を小さくまとめてしまった印象。逆に言えば自分の殻を破ればいくらでも上を狙えるので、さらなる精進を。

今後も自身の限界を突破する姿勢の投稿をお待ちしております。

11月末〆切の発表は
2018年12月30日!