お久しぶりです!編集Nです。今回の研究に取り上げるのは……この作品!!
MAGCOMI読者には釈迦に説法かもしれませんが……「この作品を読んだことない」というような方もいらっしゃるかもしれないので、まずはNの独断と偏見による簡単なあらすじを説明します。
※一部作品のネタバレを含んでいますので、ご注意ください。
『きみが英雄になる物語』とは!?
大阪にある朱堂神社は、御神体を「安倍晴明」とする由緒正しき神社。神社には、巻物「安倍晴明の書」が代々大切に祀られている。この巻物と契約を交わした神社の長男・朱堂成海は、「安倍晴明」を操ることが出来る唯一の男であるのだが…。現代の大阪を舞台に繰り広げられる安倍晴明英雄譚開幕。
英雄の書。
それは、歴史に名を刻んだ英雄たちの魂。
死してなお残った強き念、強き意志――それらが形と成ったものを指す言葉です。
本作は、そんな「英雄の書」が存在する世界における物語になります。
古くから大阪にある、由緒正しき歴史を持つ朱堂神社。
ここに住む朱堂家は、そんな英雄の書の一つを所有していました。
それは――
日本人なら誰しも一度は聞いたことのある偉人・安倍晴明を祀った英雄の書になります。
――そう。
朱堂神社は安倍晴明の書を使い、巷に蔓延る悪しき英雄の魂を鎮めることをお役目としていたのです!
そのためとあらば、どこかへ出張することも厭いません。
例えば、工事現場の再開発にて、人骨が出土した際はそこまで赴き――
戦国時代の英雄・後藤又兵衛を封じようとしたりもしています。
では、そんな悪しき英雄をどうやって封じるのか?
それは、安倍晴明をこの世に顕現させて後藤又兵衛と戦わせるという手法でした。
安倍晴明の英雄の書と契約をしている朱堂家の長男、朱堂成海。
彼は安倍晴明をこの世に顕現させて自在に操り、また本人も共に戦うことに出来る、まさに英雄ともいうべき男だったのです!
こうして、朱堂家は世に蔓延る悪しき英雄を打ち破り、騒動を鎮め、日ノ本の平和を護っていくのですが――
ここまで聞くと、イケメン主人公が英雄と協力して悪を退治していく理想的な物語に見えるかもしれません。
しかし、実はこの物語の主人公は朱堂成海ではありません。
では誰なのかというと――
朱堂成海の弟、朱堂一颯でした。
この一颯ですが、兄と比べると言葉は悪いですが凡庸・未熟と言わざるを得ません。
例えば、
学校を休んだ際、いつもプリントなどを届けてくれる子に出会ったら、ばつの悪さからいろいろと言い訳をつけて逃げ出してしまったり――
怒られて蔵に閉じ込められていたら、その蔵を住みやすく改良する悪知恵を働かせたり――
英雄の書に憧れており、読みたい欲に負けて兄に無断で拝借したり――と、
中々の自分勝手な行いをしてます。
とはいえ、心も身体も完全に成熟しきっていない中学生なら、それも無理からぬことでしょう。
ただ、その行いは思いもよらぬ悲劇を巻き起こしてしまうことになります。
先に封じたはずの英雄・後藤又兵衛が完全には封じられていないことがわかり、再度成海と戦うことになるのですが――
悪戯で一颯が英雄の書をすり替えたていた為、成海は安倍晴明をこの世に顕現できないという事態に見舞われました。
当然、成海はそれでも何とかしようと生身で戦い、
また、父親にこっぴどく叱られた一颯は急いで英雄の書を兄の元に届けようとするのですが――
そこにいたのは、変わり果てた兄の姿でした。( ;∀;)
――そう。
これは、既知の英雄が戦う物語ではなく。
「きみが英雄になる物語」というタイトル通り、英雄に憧れるまだ何者でもない中学生・成海一颯が英雄になっていく物語(と私は解釈しています)だったのです!!
こうして、自分の悪戯によって尊敬する兄を亡くした一颯が絶望の後に奮起し、お役目を継ごうと頑張る――というところから物語が始まるのですが。
ここで、私の「気になったことは徹底的に調べないと気が済まない」という性分が鎌首をもたげました。
それは――
ズバリ! 朱堂神社の所持する英雄の書の英雄、安倍晴明についてです。
安倍晴明といえば、先述した通り、日本に住む人なら誰しも一度は聞いたことのある偉人ではないでしょうか。
平安時代に陰陽道を創り上げた開祖の陰陽師というようなイメージもあり、それは作中でも言及されています。
――と、そんなことを考えたとき、私の頭には次から次へと疑問が湧き出てきました。
すなわち、
安倍晴明とは、具体的に何をした人なのだろうか?
どんなエピソードを持った偉人(英雄)なのだろうか?
この物語にもそんな要素が反映されているのだろうか?
そもそも、陰陽術とはどんな術なのだろうか?
etc.……
一度そう思ってしまえば、最早それは呪縛のように私の心を蝕んでいく。(妄想)
ということで、前置きが長くなりましたが―――
第24回マグコミ漫画研究部!~MAGCOMI作品のどうでもいいことを真面目に考察してみた~の議題は、こちらになります!!
『きみが英雄になる物語』に登場する安倍晴明について研究してみた
まずは、安倍晴明がどのような人物なのか、どのような人生を送ったのかについて調べてみました。
史書によると、安倍晴明は延喜21年1月11日(921年2月21日)に生まれ、 寛弘2年9月26日(1005年10月31日)に没したと言われるようです。
やはり、時期的にみても平安時代に活躍した偉人になるようですね。
ここで面白いと思ったのは、安倍晴明の「晴明」という名前はただの音読みであり、実際の諱本来の読み方は今に至るまで確定していないそうです。
苗字の「安倍」は現代にも残る苗字ですし、当時は苗字と名前の間に「の」を入れて読むのが慣例化していたので、そちらの読みはほぼ確定しているのですが、「晴明」については確実に「せいめい」と読むかどうかはわからず、著名な歴史研究家の間でも意見が分かれているのだとか。
よく考えれば、当時の古文書は現代のメディアと違い、漢字にいちいちルビを振らないので当然のことなのですが……
これだけ有名な人間の名前がハッキリしていないというのは中々に面白いことだなと感じてしまいます。
平安時代の僧侶は名前を音読みにすることが多かったので、ひとまず「せいめい」と暫定的に読み、それが一般的に定着した…と言われているようですが、
はるあき/ はるあきら / はれあきら / せいみょう
など、「晴明」にはまだまだ読みの組み合わせは無数にあります。
当時はキラキラネームという概念も存在していませんし、あまり妙な読み方はしないとは思いますが、こうしてみると不思議な感慨を覚えますね…!
そんな安倍晴明ですが、その約80年の人生に多種多様な逸話・伝説を巻き起こしています。
中でも有名なものは、式神を操ったことではないでしょうか。
式神とは、陰陽師が使役する鬼(神)を指す言葉です。
細分化するといろんな種類があるのですが、
呪符やお札に鬼を封じ込めて使役しているというのが一般的に知られています。
この式神を駆使しながら陰陽師は世に蔓延る怨霊や鬼を退治していったとされ、中でも安倍晴明は、『十二神将』と呼ばれる最強の式神を使役していたそうです。
この十二神将ですが、平和や秩序を司る吉将と、厄災や混沌を司る凶将に分かれていると言われています。
吉将は、六合・貴人・青竜・天后・大陰・大裳と言われ、
凶将は、騰虵・勾陳・朱雀・玄武・天空・白虎で、中国の神獣などが元になっているのだとか。
これら全員を式神として使役していたとなると、たしかにどんな悪霊や鬼でも退治できたような気がしてきますね…!
作中でも、封印された鬼を退治する為に晴明が式神を使役する場面がありますが、ここで十二神将の名を唱えていることから、本作でもその要素を取り入れていることがわかります。
しかし、こうして調べていくと、作中で言及されている封印された鬼は誰なのか?ということが気になりますね…!
平安の世、安倍晴明が封じたものの、その後連綿と朱堂家の血に潜み続けたとされる鬼。
「朱堂家の真のお役目」として鬼の復活を阻止することも挙げられている為、最初に読んだ際はこの「封印された鬼」が十二神将の誰かだと思ったのですが――
十二神将は安倍晴明に使役されていることから、この封印された鬼は最強の鬼・十二神将とは違う鬼ということがわかります。
はたしてこの鬼はどういった存在なのか…!?
いずれ本編で明かされるかもしれませんので、楽しみにしていましょう!
また、安倍晴明を調べていく内に、本編とリンクするかのような興味深い描写を見つけてしまいました。
それは、安倍晴明の息子たち――長男と次男の関係性です。
安倍晴明には、長男・安倍吉平と次男・安倍吉昌の
二人の息子がいたと言われているのですが――
なんと! 安倍晴明の死後、跡を継ぎ陰陽師の頂点に立つ役職である陰陽頭となったのは次男である安倍吉昌の方であると言われているのです。
当時は今よりずっと世襲が慣例化しており、長男といえばお家を継ぐ対象として大切に育てられ、死にでもしない限り後継者が繰り上がるということはなかった時代です。
そんな時代にも関わらず、陰陽頭となったのは次男の吉昌の方でした。
この理由は諸説あり、
・安倍吉平は妾腹の息子で庶子であったため吉昌が継いだのではないか
・異母兄弟のため、年齢は1歳程度しか離れていなかったのでどっちでもよかったのではないか
・長男である吉平になんらかの醜聞があり失脚したのではないか
・単に次男の方が長男より優秀だったからではないか
…etc.
などが言われていますが、詳細な理由は現在に至るまで謎のままです。
史書に伝わる功績だけみると、長男も次男も名声を博しているので、どちらかが劣等生でどちらかが優秀だったということはなさそうですが――
とはいえ、これだけみると作中の登場人物・成海と一颯の関係性を連想してしまいます。
厳格な父に怒られ、その逃げ根性を怒られ続けていた一颯。
朱堂神社の嫡子として「お役目」を果たしつつ、弟も気にかけていた優秀な兄・成海。
この物語は、「安倍晴明」を軸にした物語ながらも
この兄弟二人の関係性から紡がれていく「きみが英雄になる」物語です。
そんな中、実在する安倍晴明の息子兄弟たちにも、理由のわからない謎めいた後継者問題があるのなら――
結論。
もしかすると作中の一颯と成海は、安倍晴明の二人の息子の兄弟間の関係から着想を得た…のかもしれない!?
この研究結果を是非お尋ねしてみたいと考えたNは、著者である八代ちよ先生にインタビューをしてみました!
かくかくしかじかとそういう訳で、上記結論をマグコミ研究部公式見解として出しました!いかがでしょうか!
そうですね。着想という点では残念ながら違いますが、そういう兄弟だからこその関係性も出せればと思っております。
それにしても「晴明の息子」というワードもなかなかに心震えるものがありますね。(心というか性癖と言いますか)
違ってましたか(´・ω・`) でも、「兄弟だからこその関係性」がどのように描かれるのか、楽しみにしてます!
たしかに、「晴明の息子」というと何かロマンを感じて心震えますよね。神秘的なものというか…。晴明の母親・葛の葉も実はキツネだったというような伝説もあるようですし…! ちなみに、十二神将やその他、安倍晴明についてここで紹介したエピソードはご存知でしたでしょうか。
一応は、なんとか。笑。
この物語を始める際に、勉強しだしたのでまだまだ付け焼刃ではありますが、本当にいろいろな逸話がありますね。昔の陰陽師というのは魔法使いだったのかな?と思っております。
魔法使い! 言い得て妙かもしれませんね。そもそも式神を駆使したり、祝詞を口ずさむ陰陽術自体、和風ファンタジーみたいなものですし…!
ちなみに、八代先生が一番興味深いと思ったエピソードや、安倍晴明にまつわる話はございますか?
先ほどNさんも仰った、安倍晴明が「狐の子」と言われていたというエピソードが面白いなと。
現代では比喩として動物などになぞらえる事などはありますが、あまりない事ですよね。当時は本当にそう思われていたのか、その原因は何なのか。真偽がはっきりしないからこそフィクションとして漫画にすると楽しいのかもしれません。
真実を確かめる術がない以上、謎に包まれていますが、そのはっきりしないところが創作にしやすくもありますし、おおいにロマンを感じられる要因にもなってますもんね…! また、安倍晴明は実は子供の頃 悪食で虫なども食べており、ひたすら大食いだったとも伝わっていますが、こちらもご存じでしょうか?
はい。それも面白いエピソードですよね~!
ですよね! 個人的には、成海が大食い設定なのはこの設定を反映されたのかな…とも考えたのですが…!
いえ、成海兄さんが大食漢なのは『英雄の書』と繋がる事でひどく消耗しやすいので自然に食べる量が増えたという設定です。
なので、"契約者"(教会側は"執行者"、神社では"担い手"と言う) になった一颯くんも今後はたくさん食べるようになります。しっかり食べないと身体がもちませんからね。
へぇ~! なんだか食が細そうな一颯がめちゃくちゃ食べるようになるなんて、それはそれで楽しみですね! 英雄の書と契約をして、成海のように戦うようになるのは、現時点だと想像もつかないですが、楽しみにしてます!
そういえば、作中に登場する陰陽術を使う際のお祈りの真言がとても雰囲気が出ていて好きなのですが、これらは全て八代先生が考えられたのでしょうか?
ありがとうございます。内容によっては実際のご祈祷だったり、自分なりにアレンジしたり、詳しい方からのアドバイスを頂いたりしながらですね。
このお話を描くまでは、なかなか深く知らない事ばかりだったので、まだまだ勉強中です。勉強したかいがあって、ご祈祷の際に神主さんが言っている事がやっと少し聞き取れるようになりました。
なるほど! 勉強・研鑽の賜物なんですね…! 私は未だに、祈祷の際に神主さんやお坊様が唱えていることは理解できていませんが、いつかその境地まで至れるよう精進したいです(`・ω・´) ちなみに、晴明や作中の成海のように、陰陽術や式神を使えるとしたら八代先生なら何をしますか?
生きて呼吸してる事を褒めてもらいながら、原稿を応援してもらいたいですね。 あとうちの可愛い猫ちゃんで無尽蔵の体力を誇るハナコちゃんと一緒に遊んでもらいたいです。
あ、三毛猫のハナコちゃん! めっっちゃ可愛いですよね~! 実は、私も八代先生のTwitterで毎回その愛くるしさにやられている一人でして…(笑)
でも、晴明や成海が猫と遊んでるのをみると、途端に微笑ましい気持ちになりますね…!
そうですね!(笑)
ちなみに、ハナコちゃん以外で作中で八代先生が一番好きなキャラクターは誰になるのでしょうか? 私は、作中で出てくる女の子(可南・佳乃・りほ)が皆とても可愛いくて大好きです! 可南・佳乃は朱堂神社に勤めている巫女さんなのか気になってます…!
どの子もかわいいですけれど、一番は成海兄さんと、まだ出てきていない教会関係者ですね。いつかお目見えできるといいなと思います。
おぉ、皆大好き成海兄さん…! そしてまだ見ぬ教会関係者!! 登場するのを楽しみにしてます!
ありがとうございます! ちなみに可南・佳乃は、二人とも住み込みで、朱堂家のおうちの事も手伝ってもらっています。
彼女たちが居なかったら、お父さんは耳かきのために家中を探し回らなくてはならないかもしれません。
耳かき!(笑) それは責任重大ですね…! 住み込みでおうちのことをやっているとなると、掃除・洗濯・炊事とかもやっているのか…! いつか、そのような描写が本編で描かれるのを楽しみにしてます!
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…ということで突撃インタビューを試みた結果……
作中の一颯と成海は、安倍晴明の二人の息子の兄弟間の関係から着想を得た訳ではないが、兄弟だからこその関係性が今後描かれるかもしれず、また可南・佳乃がいないと朱堂家は耳かきの為に家中を探し回らないといけないくらいの存在ということが本作の公認設定(?)となりました。
そして、もしまだ『きみが英雄になる物語』を読んだことのない方!!
これを機に、読んでみてはいかがでしょうか。
下記にて第一話が無料で読めますし、MAGKANでは最新話も好評連載中ですので、少しでも興味を抱かれましたら是非お読みください!
また、今回で「マグコミ漫画研究部」は終了となります。
今までご愛読いただき、ありがとうございました!
引き続きMAGCOMIをよろしくお願い致します!
©Yashiro Chiyo/MAG Garden
※本ブログへ記載した画像は、『きみが英雄になる物語』①巻,4話~9話より抜粋し、引用させて頂きました。