2019年4月期
第40回募集、期待賞1作品・奨励賞4作品・努力賞4作品選出!
今回も多数のご応募ありがとうございました。その中から選出された、栄えある受賞作品は…?(4月30日締切分)
賞金5万円
受賞作掲載
『芍焼』
瑞生そら
あらすじ
母の流行病を治すため、万病に効くという花を探すロトは、禁じられた森の奥へと足を踏み入れる。そこで出会ったのは、森の奥から出られないという女性。彼女はロトに彼が生まれる前の昔話を話す……。
作品講評
全体的に美しさを伝えようとする、眼力のある表情や演出に長けた点が高評価を得た。ただ演出がよい分、物語は起伏に欠けていることが如実に現れている。全体的に会話劇で進み、主人公は内面の変化から行動を起こすということもない。キャラクターを物語の枠に嵌めている印象が残ってしまった。キャラクターの魅力を引き出すことを今後の課題として欲しい
賞金3万円
『ナイトウ・オブ・ザ・リビングデッド』
アンドーミチタカ
あらすじ
内藤ジュリの夫・内藤ケンジは、カリブ海に浮かぶM島長期出張から「ゾンビ」となって帰ってきた…! はたして内藤夫婦の運命やいかに!? ハートフルゾンビホラーラブコメディ!
作品講評
ホラーな画風をギャグ・コメディとして機能させた演出力とセリフ回しの面白さが評価を得て、今回の結果に繋がった。全体的にしっかり作り込まれていて漫画としての完成度は高い。しかし検討すべき点は作風にある。絵柄がキャッチーな方向でないことは確かなので、今後どのように調整していけば時流に乗ることができるのかを考えていかねばならないだろう。世間が求めているものを取り込み、更なる高みを目指してほしい。
『街灯さん』
古烏恵子(37)
あらすじ
「頭の出来が悪い」といつも父親に辛く当たられている青年の美月は、夜道で飄々とした男、“街灯さん”と知り合うが…。
作品講評
雰囲気のある作風やキャラクターの表情が評価されての入賞となった。ただ序盤のエピソードが、ストーリーの本筋(本作では人に寄生するムシの駆除)に関連しているように見えない描き方をしているので、主人公視点でない5Pまでのくだりや、美月と美鶴の出会いが本筋にどのような影響を与えるのかがわからず、序盤が冗長に感じられる。プロットを考える上で、読み手に本筋まで読ませるために、各エピソードで何を伝えるかを念頭に置こう。とはいえ、描き手の個性がしっかり感じられる作風なので研鑽した次作に期待したい。
『そうしてここに、残るもの。』
守田うせき(35)
あらすじ
猫又の紅の娘で、果ノ屋敷に住んでいる道楽は、妖をひきつけがちで…?
作品講評
前作から比べ、キャラ立ちとストーリー部分での進歩を感じさせた一作だった。特にキャラに関してはよく練られており、設定一辺倒ではなくキャラ自身のコアを感じさせるには十分の出来だった。一方、作画面、特に背景や小物、線の丁寧さがどうしてもまだ今一歩足らずといった具合で、今後の課題となるだろう。ストーリー面もやや冗長なのと詰めが甘い部分があるので、次回作に期待したい。
『Failure』
清村(19)
あらすじ
小学6年生の極道の娘・刀堂明は、学年が一つ下でいつも喧嘩ばかりしている柏木楓花に興味を持ち――?
作品講評
序盤がやや冗長だったが、ストーリーやキャラで惹きつけるものがあり、選考会でも評価が高かった。点が伸び悩んだ作画面で、もういま一歩改善を求めたいが、特有の色気は確実に持っており、年齢を含めてこれからが楽しみである。作画面での課題を上げると、人体の精度をあげる、背景の基礎的な部分を磨く、集中して一本一本の線を引く、などだろうか。今回題材選びの面でも良く、着実にプロに近づいていると言えるだろう。
賞金1万円
『飯田くんの日常』
庭野マキビシ
あらすじ
母が別れた父と再婚したことにより、10数年ぶりに「家族」に戻った飯田兄弟。弟の春二は久々に再会した兄の弓道姿を見て、徐々に過去の日々を思い出していく…。
作品講評
心情が伝わる構図の切り方が魅力的で、雰囲気作りがよく出来ていた。しかし、内容面ではまだまだ課題が多い。キャラ設定の要素を行き当たりばったりで出している印象が強く、物語として何をどう見せたいのかがわからない内容だった。主題となるものを一つに絞って、それに必要な要素はなにか取捨選択する必要があるだろう。世の作品を見る際に漫然と観るのではなく、あらすじ、演出・キャラで面白い部分はどういうところだったか、書き残しながらインプットの質を上げていこう。
『白き風 星と舞え』
さばとばん
あらすじ
親の都合で田舎に引っ越してきた高校一年生の晶生。ある満月の夜、退屈を持て余した晶生が森を探索していると、突然「空に落ちて」しまう。落ちた拍子に大切なものを失くし動揺する晶生、そして闇夜に溶ける怪異の気配…。心細がる晶生の前に現れたのは――?
作品講評
一枚絵として魅力的な画づくりや雰囲気づくりはできているものの、キャラクターの置かれている状況、行動の動機、関係性などの提示が不十分なため、目が滑ってしまう。雰囲気を見せるに留まらず、キャラクターやストーリーの魅力を読者に伝えられるように、「わかりやすさ」を心がけて必要な情報を整理しよう。
『sweet trick』
なつき凛
あらすじ
札幌の繁華街で深夜のみ営業している夜パフェ専門店「sweet trick」。好みにぴたりとあてはまる「おまかせパフェ」を求めて、今夜もまた悩める客が訪れる――。
作品講評
題材や舞台に対して素直なつくりで、広げたお話がきちんと畳まれ、画面は遊びもありつつ安定感も備えており読みやすかった。総じて、お手本のようにまとまった作品。しかし企画に忠実に寄りすぎた感があり、逆に作家自身の個性が埋没していた。テーマを描くための要件を押さえることも無論大事だが、そのテーマ選びや作品そのものが、作者の意図や嗜好が反映されたものであってほしい。そこに光る個性こそが「今の作品への満足」と「次の作品への期待」を結び付けるのだから。
『精霊狩り』
藤平衛(25)
あらすじ
人間と精霊が共存する世界。人々は精霊たちと手を取り合い、穏やかに暮らしていた。しかし、悪事を働く人間がいるように悪を成す精霊もまた存在した。賞金稼ぎのロマは、そういった無法者を捕らえて旅をしていたが…。
作品講評
前作より線が整理され、見やすい画面が作れている。画力は向上を感じる一方で、ところどころデッサンの狂いも見えてしまっているので、画力向上と向き合ってもらいたい。アイディア的なところでは、それ自体は良かった反面、その設定に作画が縛られてしまっている印象を受ける。人間と精霊とで能力以外にも内面的な差が見えると、それが面白さに繋がるので、次作では環境や能力によって違いが出る人物の内面を描いてほしい。
『絶対アタシがヒロイン!』(完成原稿部門)
奈井(21)
『コメット☆ぷりずん』(チャレンジ部門)
一文字雛(42)
期待賞1作品・奨励賞4作品、努力賞4作品選出。
自身の画風・作風を活かそうとする投稿作品が多く見られた。
期待賞の『芍焼』は絵としての見せ方が上手く、表現と演出の豊かさが作品全体を包む美しさとして機能している。ストーリーも同様に、自身の作品の見え方を意識したような作りとなっており高い統一感のある作品だった。一方で、見え方の意識が強すぎるあまりに、肝心の内容に関してはあまり掴みどころのないものになってしまった印象。今後は作品を創るにあたり、読者が手に取りやすい「フック」を意識できると一つステップが上がるように思う。
奨励賞の『ナイトウ・オブ・ザ・リビングデッド』はホラーテイストのギャグ・コメディという企画性も評価された。漫画ならではのスピード感に、癖のある作風が加わりこの作者にしか描けない唯一無二のものになっている。とはいえ癖が強すぎると読者は引いてしまうので、良いバランスを心がけて頂きたい。
同賞の『街灯さん』。インパクトのある画面作りが出来ており、全体通して作品世界の奇妙な雰囲気を作ることには成功している。次を意識したときに必要なのは、読者を如何にして作品世界に引き込むかの手段に思える。そのためにも基本である「わかりやすさ」をないがしろにせず、研鑽を続けて欲しい。
同賞の「そうしてここに、残るもの。」はキャラの見せ方が非常によく、各キャラのあり方そのものが物語のあり方に直結していた点が評価に繋がった。画面全体はまだ粗さが残るので、作品と向き合う上で「丁寧さ」を追求してもらいたい。
同賞の『Failure』。画面の情報量が足りないものの、ストーリーとキャラ性が非常に立っていた。「小学生」「極道」という一見荒唐無稽な組み合わせにここぞとばかりに説得力を持たせられているのは作者の力量あっての技。課題となっている作画面のより一層の発展に期待したい。
努力賞以下の作品は「これを描きたい」という情熱は伝わる一方で、描きたいものをただ描いているという印象。主観的に作品を創ると独りよがりなものになりやすいので、客観的に自身の作品を見ることができる目を養ってもらいたい。
今後も情熱のこもった意欲作をお待ちしております。