月例マグコミマンガ大賞・結果発表 2019年5月期

2019年5月期

月例マグコミマンガ大賞 結果発表!!

第41回募集、期待賞2作品・奨励賞2作品・努力賞1作品選出!

今回も多数のご応募ありがとうございました。その中から選出された、栄えある受賞作品は…?(5月31日締切分)

完成原稿部門:期待賞賞金5万円
受賞作掲載

『ツキノオンナ』

『ツキノオンナ』

kana(22)

あらすじ

若くしてボクシングのチャンピオンとなったノゾム。しかし、その栄華は一つの敗戦を機に失われた。ある日トレーニングをしていた海岸でクラゲのような生物を拾う。それ以降、不思議な運がついて回る…。

作品講評

画面の情報量が多く、「見せる」絵が描かれている作品。ディテールがしっかりと描けており、世界観のリアリティがしっかりと担保されている。反面、物語の内容的には一部のファンタジー要素に対してそのリアリティが重くなりすぎているきらいがある。ただ闇雲に書き込みを増やすのではなく、描きたい内容のファンタジー成分とリアリティ成分の配分をしっかりと把握した上で、どの程度まで画面を作り込むのかのバランス感覚を養ってほしい。

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『地下の土人形』

『地下の土人形』

MAYU(26)

あらすじ

創られた命であるゴーレムの子どもたち。彼らを創った魔女・フランフランによって、子供たちは太陽が届かない地下で暮らすが…。

作品講評

力のある画面が印象的。絵のタッチも独特で、物語の切り取り方/見せ方が面白く記憶に残りやすい作品。それ故に作品としての細かい粗も多く記憶に残ってしまった。今後の課題としては、丁寧さを心がけた上で「動き」の絵を描けると画面に柔軟性が出てより見やすい画面になるかと。内容面はより普遍的に伝わるエンタメ成分を加えられるようになると読者にとって読みやすい物語になる。自分の手が届く範囲ではなく、できるだけ背伸びして自身の能力の幅を広げて欲しい。

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完成原稿部門:奨励賞賞金3万円

『御針の君』

+特別掲載

『御針の君』

太福ユトル

あらすじ

時は平安、皇族の衣服を裁縫する縫殿寮に仕えることを夢見る少女がいた。名は木綿子。ある日木綿子は、天皇の六番目の側室・六番様が、父である大納言に容姿をいびられることに腹を立て、「帝の心を掴む服を作る」と啖呵を切り――。

作品講評

丁寧な作画、堅実なドラマ性、好感の持てるキャラクター。全体的な水準は高く、今回の受賞と相成った。奨励賞どまりとなってしまったのは、ひとえに今後の業界でひとつ頭飛び抜けた武器を持っているかどうかで評価が分かれたところだろう。ケレン味のある演出や画面作りなのか、アクの強いキャラやストーリーなのか、何か極振りするにはどうすればよいか、題材選びの段階から念頭に置いておく必要があるだろう。

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『99% OCEAN』

『99% OCEAN』

宝乃あいらんど(29)

あらすじ

20XX年、地球の99%を海が覆うようになった時代、全てを失った人類は海へと出た。船長・ヴィックは船を率い、海底に沈む資材を引き上げて商売をしていた。優秀なヴィックだったが、しかし“彼”にはある秘密があった――。

作品講評

全体的に作画が丁寧で、セリフや表情も相まってドラマの中でキャラクターが生きているのを感じた。演出も読者を良い意味で驚かせようとしているのが感じられて良かった。一方で世界観に関する設定が膨大な割にあまり活かされておらず、物語の本質が読者に伝わりづらくなる原因となっている。この世界でしか描けないストーリー、あるいはストーリーに適した世界観を用意することを意識してほしい。

完成原稿部門:努力賞賞金1万円

『レゾンケージ』

『レゾンケージ』

都筑瞳(26)

あらすじ

様々な生物が暮らす「ガーデン」。沢山の友達、不自由のない生活。コーダはそんな生活に違和感を覚え始める。ある日フェイと名乗る少年と出会う。コーダはフェイに銃を向けられ、ある記憶が甦る。

作品講評

キャッチーで可愛いキャラデザイン、タッチも安定しており安心して読める作品だった。導入の惹き方もしっかりと読者に向いて作られていて好感。肝心の内容面が設定の説明に終止してしまい、「物語の第1話」感だけで終わってしまったのが惜しいところ。この設定を踏まえてこの後の物語をどのように切り取るかというのが作家の腕の見せどころなので、何を読者に提示するかという点を具体的に意識して次回作に取り組んで欲しい。

最終選考作品

『ドリーミンブルー』(完成原稿部門)

瑠夏子(23)

『悠久のスウェル』(完成原稿部門)

押月禄

『爪と牙』(完成原稿部門)

杜的錬侍(27)

『よくないバイト』(完成原稿部門)

chinami(26)

総評

期待賞2作品・奨励賞2作品、努力賞1作品選出。
骨太な作風に期待感を覚える作品の多い回となった。

期待賞を獲得した2作品は、どちらも存在感のあるタッチが特徴的な作品だった。
『ツキノオンナ』は丁寧な作画が臨場感だけでなく、人物の心情や場面の抒情的な部分にまで効果を及ぼしており、引き込まれた。ただペンタッチの濃さ、特に顔パーツの造形については好みの分かれやすい部分なので、昨今の商業作品を眺めつつバランスを見定めてみては。ストーリー面ではテーマに沿って筋を通せていた一方、読み手の想像以上のものには至らずという印象。読み手を改めて意識し、作風を活かした戦略を練ってほしい。
『地下の土人形』は、過去作よりさらに間口の広い向きを意識して成長していると感じられた。世界観のオリジナリティと、キャラクターの普遍的でありながら強い感情を武器に、作品を構築しているのは好印象。それらを下支えするエンタメ感、読みやすさ、デザインのアップデート、序盤から読み手の心を掴むキャッチーさなどが今後の課題か。

奨励賞の『御針の君』は流麗な筆致が企画や時代感とマッチしており、構成の安定感も高く、最後まで読ませる作りだった。確かな力量を感じさせつつ、しかし奨励賞に留まったのは、画面やキャラクターが発散する「華」があと一歩足りなかったことに尽きる。読み手を惹きつけるための工夫、ないし自身のこだわりを大きく発露させ、引力を高めた次回作を期待したい。
同賞の『99% OCEAN』は、世界観やキャラ設定に挑戦的なエンタメ精神を感じた。ただし、読切一本分のドラマに対しては明らかに積載過多。設定に振り回されず、自分自身にとって取回しやすいスケールに落とし込んだ方が、結果的に良さを活かせるだろう。

努力賞以下の作品は、それぞれ企画や表現において個性が際立つものが多く、それ自体は好印象。ただし描き手の独りよがりな構成が多く目につく。ネタを漫画の形にして読み手にぶつけるのではなく、読んでもらえるよう整える意識を。

今後も興奮の体験を運んでくれる力作をお待ちしております。

6月末〆切の発表は
2019年7月30日!